少年が来る

『少年が来る』 ハン・ガン著 井手俊作訳 クオン

新しい韓国の文学15

光州事件から約三十五年。あのとき、生を閉じた者の身に何が起きたのか。生き残った者は、あれからどうやって生きてきたのか。未来を奪われた者は何を思い、子どもを失った母親はどんな生を余儀なくされたのか。三十年以上経て、初めて見えてくるものがあるー。
丹念な取材のもと、死者と生き残った者の声にならない声を丁寧に掬いとった衝撃作。『菜食主義者』でマン・ブッカー賞国際賞に輝いた著者渾身の物語。ー本の帯より

これは小説なのか、それとも実話なのか。

光州事件は本当にあったことだけど、詳細な内容はほとんど知らない。
まして、軍がどのような拷問をしたのか、本当に同じ民族に対して拷問なんて行ったのか。
しかも、1980年といえば、そんな昔の話ではない。
それを踏まえてこの本を読んだとき、これはルポなのか? 小説なのか? とても混乱した。
事実を踏まえているけど、小説としてかなり盛りましたよ。って言って欲しい。
現実には、かなりの取材の痕跡と、多くに資料を基にしている跡があり、人物名はフィクションだとしても、拷問や事実関係は真実だとして受け入れなくてはいけない。と思う。

光州事件に関わった人たちの、それぞれの立場から、その当時のことや生き残った者たちのどうやって生きてきたのかを語った物語。
『少年が来る』という通り、一人の少年を軸として、関わった一人一人の人生を見た。
どの立場からのお話も、少年は愛されていたことが分かる。
短いたった数日して共にしていなかった人でも、やはり彼が生きがいに、人として踏みとどまらせてくれる存在だった。

これは、自分だったらどうしていたのか?
誰のように行動したのか?
身近な国で起こったそんな昔な話でない出来事、決して他人事ではない事件。
行動を起こした方がよかったのか?
そもそも行動を起こしてはなく、人助けをしただけで巻き込まれていった人たち。
そんな人たちを虫のように簡単に殺して、目を覆いたくなるような残虐なことを行った同胞たち。

惨殺されるも地獄、生き残るのも地獄。
最後には、少年は殺されてよかったなとさえ思ってしまうほど、生き残ることの方が地獄だという現実。

人は、正義は勝たない、国は自分を守ってくれない、理不尽な状況に置かれたとき、どこに心の拠り所を置くのだろうか。
人はそこまで残酷になれるのか。人の尊厳はどこになるのか。
正義のために立ち上げる韓国人の強さを見た。

六章の「花が咲いてる方に」は、涙が止まらなかった。
辛くて切なくて、胸が張り裂けそうだった。

読んでいる間中ずっと、奥歯を嚙み締め続け過ぎて、頭がずきずきする。

これは小説なのか、それとも実話なのか、いいえ小説であって欲しい。


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