『丸い地球のどこかの曲がり角で』
『丸い地球のどこかの曲がり角で』ローレン・グロフ 光野 多恵子訳 河出書房新社
原題は『FLORIDA』だそうだ。
「月はきっと気づいてさえいないだろう。
人間という、取るに足りないちっぽけな存在には。」
「爬虫類を愛する学者の父と本屋を営む母の軋轢のなかで育った、数字がすべての若者が世界の真実に触れていく表題作のほか、車を吹きとばすハリケーンのなか、絶品のワインを供に過去の思い出深い男たちと邂逅する「ハリケーンの目」、深夜のウォーキングで目にする水族館の水槽のような近隣の窓景を描く「亡霊たちと抜け殻たち」、奨学金の受給停止をきっかけに、路上生活者となった女子大学院生の彷譚譚「天国と地獄」など、蛇やワニの危険に満ち、差別や格差が色濃く残り、亡霊たちがさまよう土地で語られる傑作短篇集」本の帯より
オバマ元大統領 推薦図書
『FLORIDA』という原題に惹かれて…
本の装画が、ヒグチユウコさんだったのいわゆるジャケ買い。
11篇の短篇集で、どのお話もハッピーエンドではなく、少々ヒリヒリ系
原題の『FLORIDA』とのギャップが、余計にヒリヒリ感を増す。
フロリダを舞台に、お話が構成されている。
明るいイメージのフロリダではなく、フロリダの影の部分とでも言うのか、うす暗く鬱蒼としたイメージのお話が続く。
「天国と地獄」
若い女性の貧困は、読んでいて辛くなる。
奨学金による貧困は、アメリカの社会問題でもある。
「彼女は握った拳を窓の外に出し、ゆっくりと開いていった。夢が手のひらからこぼれ落ちて、道路を跳ねながら遠ざかっていくのが見えるようだった。自分の名前で本を出す夢、大学教授の特典であるサバティカル休暇をフィレンツェで過ごす夢、森のそばに今風の立派な家を建てる夢。それらすべてが消え失せた。」
とても簡単に貧困に陥ってしまう。
手のひらを開くくらい簡単に。
アメリカの奨学金制度は、一生返済に苦しめられるということも多いよう…
「愛の神のために、神の愛のために」
格差のある二組の夫婦。
4人の男女がいると、やはりややこしい。そこに姪っ子のミナ…
あたしは栄光に向かって歩いていく。あたしは二十一歳だ。あたしは美しい。やりたいと思うことは何でもできる。自分はいま人生の上り坂をわくわくしながらのぼっているのだと、ミナは思った。四人のテーブルに近づいていくにつれ、彼らは崖っぷちであっち揺れこっちへ揺れしている。----下り坂をころげ落ちているところだ。じきに、にっちもさっちも行かなくなるだろう。
若ものは最強だ。
何もかもが美しかった。どんなに素晴らしいことが起こっても不思議はなかった。桃が真っ二つに割れるように、世界はいま開いたところだ。なのに、このしょうもない人たちときたら。彼らにそれらが見えないのは年のせいなのか? 彼らだってちょっと手をのばして、もぎ取り、口に持っていきさえすれば、すばらしい果実を味わえるというのに。
ヒリヒリする…