象の旅

『象の旅』 ジョゼ・サラマーゴ著 木下眞穂訳 書肆侃侃房

ジョゼ・サラマーゴ生誕100年(2022年)!

象は、大勢に拍手され、見物され、あっという間に忘れられるんです。
それが人生というものです。


ノーベル賞作家サラマーゴが最晩年に遺した、史実に基づく愛と皮肉なユーモアに満ちた傑作。

1551年、ポルトガル国王はオーストリア大公の婚儀への祝いとして象を贈ることを決める。象遣いのスブッロは、重大な任務を受け象のソロモンの肩に乗ってリスボンを出発する。

嵐の地中海を渡り、冬のアルプスを越え、行く先々で出会う人々に驚きを与えながら、彼らはウィーンまでひたすら歩く。

時おり作家自身も顔をのぞかせて語られる、波乱万丈で壮大な旅。

ロスアンゼルス・タイムス

「サラマーゴが、その人生の終わりに近くで書いた、愛嬌たっぷりの作品。『象の旅』は皮肉たっぷりで共感を豊かに誘う語りの中に、人間の本質についてのウィットに富んだ思索と、人間の尊厳を侮辱する権力者への揶揄を定期的に挟み込んでくる」

GQ

「サラマーゴは(……)この奇妙ながらも読み進めずにはいられない物語を紡いだ。サラマーゴがシュールで魅力的な散文の巨匠としてこれからも人々の記憶にのこるのはなぜか、この物語が完ぺきな例である」

書体が独特なので、読むのにとても苦労した。

文の改行がないので、どこを読んでいるのかすぐに見失ってしまって、いつも以上に時間がかかった。

会話に鍵括弧がないので、慣れるまで少し時間がかかった。

あと、天の声が現代的な説明を加えたりするので、小説というより実録を読んでいるような感じだった。

一頭の象の中には二頭の象がいると以前に話しました。一頭は教わったことを習得し、もう一頭は何もかもを無視しつづけます。なぜそれがわかった。自分も象にそっくりだと気づいたのです。自分のある部分は学んで覚え、別の部分では学んだことを無視する。そして、長く生きていくほど、無視することが増えるんです。そういう言葉遊びにはついていけんな。わたしが言葉で遊ぶのではなく、言葉がわたしと遊ぶんですよ。

なんとも哲学的だ。

余白を想像で埋めた実録と思えばいいのだと思う。

最後、消息は確かではないが、象遣いがインドではなく、リスボンに向かったというのはよかったな。


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